ストーリー / STORY

穏やかな五月の夕暮れ時―――。

 

藤野(BLAST代表取締役)は外車販売ディーラーの商談ブースにいた。

そのディーラーに勤めている友人に、セダンの購入を相談していたのだ。

藤野が購入する意思をほとんど固めかけた時、友人が出し抜けにこう言った。

 

「本当はさ、藤野には勧めたい車が別にあるんだよね」

 

友人に促されるまま、藤野は彼が勧めたいというクーペの前まで移動した。

(2ドアのスポーツタイプクーペか…そういえばなんで選択肢になかったのだろう?)

この時、藤野の脳裏には子どもの頃、スーパーカーに憧れたあの“ワクワク”した感情の記憶が呼び覚まされていた。

その結果、藤野が出した結論は、そのクーペの購入だった。

セダンではなく、クーペを選択することこそが、自分らしいと思えたからだ。

 

スポーツタイプクーペということで、自分好みにドレスアップをしようと考えた藤野は、様々なショップやパーツを検索し、研究を重ねた。

やがて導かれるように、あるボディキットに目を奪われることになる。

それまで検討していたどんなカスタムパーツも、一瞬で色あせてしまった。

それ程までにそのボディキットは藤野の心を魅了し、このスタイリングをどうしても手に入れたいと思わせたのだ。

 

クーペはディーラーから納車されたと同時に、愛知県のとあるファクトリーに持ち込まれた。

それからのおよそ3か月間、藤野はどこかふわふわした日々を過ごした。

後に藤野は

「あの期間は本当に仕事に身が入らなかった(笑)」

と述懐している。

 

そしてついに、藤野が心待ちにしていた引き渡しの日がやって来た。

その出来栄えは素晴らしく、藤野は言葉にはしがたい感動を味わうことになる。

その日から藤野とそのクーペはいつも一緒だった。

積極的にイベントなどにも参加して、知らず知らずに車を通じての友人も増え始めていった。

 

こうして藤野はますますカスタムカーの世界に傾倒してゆくことになる。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

そんなある日。

件のスポーツクーペは富士スピードウェイで開催された走行イベントに参加していた。

このイベントでは、来場者の中から抽選で選ばれた子どもを乗せて、同乗走行をすることになっていたのだ。

 

藤野が助手席に乗せた少年を横目でチラッと確認すると、少し緊張している様子だった。

バックストレートに入ったところで、それまでより少しだけ速度を上げて反応を見ることにした。

 

「ありがとうございました。きっと一生の思い出になると思います!」

 

車から降りると少年の父親が駆け寄って来て、ペコっと頭を下げた。

父親からあまりにも笑顔でお礼を言われたので、藤野は彼らにもう少しだけサプライズをしたくなっていた。

 

「良かったら運転席に座ったところを写真撮ります?」

 

親子が大喜びしたのは言うまでもない。

去り際に父親が握手を求めてきた。

少年は父親に手を引かれながらも、何度も後ろを振り返り、長い間手を振り続けていた。

 

それは藤野にとっても久々に気持ちの良い体験だった。

ひょっとして、これはとても良いことをしたのかもしれない!

そんな思いが脳裏をかすめた時、彼の中で何かが動き出した。

 

その日を境に、「この感動体験を仕事に出来ないだろうか?」が藤野のテーマとなった。

 

 

そうだ、この感動体験を仕事に出来ないだろうか…?

 

思い返せば、藤野は小さい頃からクルマが大好きだった。

小学生時代はスーパーカーブームのド真ん中で、親にねだってスーパーカーショーに行ったり、スーパーカーの排気音だけを収録したレコードを買ってもらったり、そんな子どもだった。

そう、藤野にとっては「あの頃クルマは輝いていた」という記憶しかない。

 

今の世の中、エコカーやリーズナブルな車で溢れかえっている。

そう思うと、あの親子が少し不憫にも思えてくる。

今の自動車に、あの頃の輝きが宿っているとはどうしても思えないからだ。

自分が味わった感動体験に、残念ながら彼らは出会ってこなかったのだろうと藤野は思った。

 

(もし僕がイベントのパレードランであの少年を助手席に乗せていなかったら、彼は大人になるまでそういう経験をしないままだったかもしれないな…)

 

世間では恐らくカスタムカーの存在を「暴走族」「違法改造車」としか見ていないだろう。

そうした誤解や偏見を抱えたままでは、あの少年が自分に見せたようなまるで宝石のような眩しい笑顔には気付けないのではないか…?

藤野はそんなことを考えていた。

 

もやもやしたものを抱えながら、数日が過ぎた。

その日も藤野にとっては何気ない日常で終わるはずだった。

しかしその日、藤野は隣を歩く友人から、思いもよらぬ提案を受けることになる。

 

昼食を摂るため街を歩いていた二人の横をアヴェンタドールがゆっくりと通り過ぎた。

藤野はそれを見て、何気なく友人にこう語りかけた。

「そういえば、子どもの頃はいつかスーパーカーに乗りたいという夢を持っていたなぁ…」

「ほほぅ…」

友人はイタズラを思いついた少年のような顔でこう返した。

「あのさ、車の販売をしながらだと、無理なくスーパーカーに乗れちゃうんだよ。いっそのこと会社作っちゃえば?(笑)」

 

最初はもちろん冗談だと思った。

しかし考えてみると、とても合理的な提案に思えてならなかった。

クルマを販売する会社を作る。

そうすれば、自分も満足しながら周りに感動と夢を与えられる。

さらに、いろいろな車のカスタムをしてゆけばその輪はどんどん広がってゆくのではないか…。

それは藤野のテーマだった「この感動体験を仕事に出来ないだろうか?」という問いに答えが見つかった瞬間だった。

 

こうして藤野はクルマを、それも「カスタムカー」を売る仕事を始めようと決心したのだ。

 

あの出会いから数年。

 

あの少年との出会いから数年が経っていた。

 

あれから藤野は冷静な経営者の視点から、事業の成功を模索していた。

「カスタムカー」を売る仕事を始めるとは決めていたが、鉄の塊を売りつけたい訳ではない。

彼が販売したいのは「感動体験」そのものだ。

 

まず子どもたちには、その未来が明るく無限であることを伝えよう。

そして彼らがその夢を育むためのお手伝いが出来る会社にしよう。

 

大人たちには、頼りになる存在としてずっと寄り添いたい。

新しい夢に向かうための一歩を踏み出そうとしている彼らに勇気を与え、その背中を押してあげよう。

 

様々な事業を通じて、カーオーナーの充実したライフスタイルを提案することが感動体験につながるはずだ。

 

こうして徐々に藤野が思い描く会社の骨格が出来上がっていった。

 

そしてついに、藤野は本当にカスタムカーを販売する会社を立ち上げた。

彼が今年ちょうど50歳を迎えることも、決して無関係ではないだろう。

年齢的にも、自分にとっての最後の挑戦に相応しいタイミングのように思えたからだった。

 

また藤野の周りには、彼の考えに共感してくれる信頼のおける仲間達が集まった。

ならば、心から認め合える仲間の力を結集して最高の仕事をしよう。

チームワークを重視し、提供する商品やサービス品質の向上に常に挑戦する企業でありたい。

 

そして起業の場所は藤野の地元、町田にこだわった。

彼はこの街が大好きだ。

生まれ育った地元を愛し、愛される企業でありたいと願い、そして地域社会の発展に貢献することを誇りにしたいと思うのだ。

 

藤野は言う。

 

「最初は僕の思いつきで始まった会社かもしれない。

けれど、お客様の笑顔のために、様々な事業に全力で取り組んでゆく覚悟だ」

 

と―――。

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